まず、一般の圏論において定理を成立させるために用いられた「対象の圏論的なコンパクト性」の定義を振り返る。
圏 $\mathcal{C}$ における対象 $X$ が圏論的にコンパクトであるとは、$X$ に向かう任意の結合的に全射 (jointly surjective) な射の族 $S = \{f_i : X_i \to X\}_{i \in I}$ が与えられたとき、必ずある有限の部分族 $F \subset S$ が存在して、その部分族 $F$ だけで既に結合的に全射となることである。
この条件は、位相空間論における通常のコンパクト性 (任意の開被覆が有限部分被覆を持つ) と直観的なアナロジーを持つものの、対象となる射の族に一切の制限 (例えば開写像であることなど) を設けていないため、圏によっては極めて厳しい条件となる。
前述の定義をコンパクトHausdorff空間の圏 $\mathbf{CHaus}$ に適用すると、無限個の点を持つ空間においてこの性質が決定的に破綻することを示す。
無限個の点を持つ任意のコンパクトHausdorff空間 $X$ を考える (例えば、実数の有界閉区間 $X = [0,1]$ など)。
空間 $X$ の各点 $x \in X$ は単元集合 $\{x\}$ をなすが、これはそれ自身に自明な位相を入れることでコンパクトHausdorff空間となる。したがって、各点 $x$ に対して自然な包含写像
$$f_x : \{x\} \hookrightarrow X$$
を考えることができ、これは $\mathbf{CHaus}$ における射である。
これらすべての点からの包含写像を集めた射の族 $S = \{ f_x \}_{x \in X}$ を考える。この族の像の和集合 $\bigcup_{x \in X} \mathrm{Im}(f_x)$ は空間 $X$ 全体に一致するため、族 $S$ は明らかに結合的に全射 (jointly surjective) である。
しかしながら、この族 $S$ からいかなる有限個の射の部分族 $F = \{ f_{x_1}, \dots, f_{x_n} \}$ を取り出しても、その像の和集合は $X$ 内の有限個の点 $\{x_1, \dots, x_n\}$ に過ぎない。空間 $X$ は無限個の点を持つため、この有限集合が $X$ 全体を覆うことは決してない。
すなわち、$\mathbf{CHaus}$ における無限空間 $X$ は、「任意の結合全射の族が、有限の結合全射な部分族を含む」という定義 1.1 の性質を満たさない。
上記の議論により、一般的な圏論のアプローチに基づく定理が $\mathbf{CHaus}$ に適用できない論理構造が明確になる。
一般的な圏論における定理「対象が圏論的にコンパクトであれば $J_{can} = J_{coh}$ になる」という命題の論理構成自体は正しい。実際、代数幾何学におけるコヒーレントスキームの圏や、論理学から作られる特定の構文圏などでは、生成系をなす対象が定義 1.1 の意味でのコンパクト性を満たすため、この定理が機能する。
しかしながら、この定理の前提条件である「圏のすべての対象が (圏論的な意味で) コンパクトである」という命題は、反例 2.1 で示した通り、圏 $\mathbf{CHaus}$ においては偽 (False) である。
論理学において、前提が偽である定理を特定の対象に適用して結論を引き出すことはできない。したがって、定理の証明をそのまま $\mathbf{CHaus}$ に持ち込んで、$J_{can} = J_{coh}$ を導く根拠とすることは論理的に不可能である。